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シドニー出張日記:ヘンリーと愉しむ シドニー ビーチカルチャー

 

North Narrabeen Rock Poolのシャワーにて。オーストラリアの夏には、真水のシャワーがちょうど良い。

 


日本航空便は早朝に到着するので、朝8時にはホテルに到着する。さすがに朝8時だとアーリーチェックインできないことも多いので、チェックインまでの時間、Botanic Gardenでランニングをするのが僕のお決まりのパターンになっている(そんな理由もあって、僕の定宿はBotanic Garden横のInterContinentalなのである)。

 

 
  Sydney Royal Botanic Garden 高層ビルをバックに、朝から多くの人がランニングを楽しんでいる     Botanic Garden Restaurant。緑に囲まれたテラス席がお勧めだ  

 

SydneyのBotanic Gardenは、無料*1なのに手入れが完璧に行き届いており、どの季節に訪れても花が咲き続けるよう管理されている。花と緑の香りを感じながら小道を走り抜けるのが、何より気持ちいい。海辺の遊歩道が人気のランニングコースになっていて、高層ビル群や、オペラハウスをバックに走っている人たちも多い。この日、僕と一緒にランニングを楽しんだ友人のHenryは、Botanic Gardenからほど近い高級住宅街のSurry Hillsにある自宅から、毎日、Botanic Gardenを走って通勤するとのこと。東京では実現しえない、健康的なライフスタイルである。

ランニングが終わると、ちょうど小腹も空く頃なので、ブランチに出かける。アッパークラスな雰囲気が好みなら、Botanic Garden Restaurantが良いだろう(ただし週末は結婚式で貸切になっていることが多いので要注意だ)。でも僕のお気に入りは、DarlinghurstにあるCommons。この日、僕が頼んだのは、Vegi Platter (ちなみに、オージーは野菜をVegiと呼ぶのね)。ズッキーニの花の部分にチーズを詰めて天ぷらにするという、なかなかの創作ぶりだか、意外にもイケる味だった。

 

 
  Commons Darlinghurst エントランス。表がサンルームになっていて、天井から無数の植物がぶら下げられている     Commons Darlinghurst Vegi Platter。ズッキーニの花にチーズを詰めた天ぷら、ポーチドエッグ、アボカドとマッシュルーム。  

 

Henryはボランティアでライフセーバーをやっていて、「今日の午後は、Rock Poolで水泳の練習をするんだ」と言うので、僕も連れて行ってもらうことにした。Rock pool(Ocean bathとかOcean poolとも呼ばれる)は、海辺の岩場をくり抜いて作ったオーストラリア特有のプールで、20世紀初頭に地元の名士などにより作られた。New South Wales州を中心に約100ヶ所が現存している。ほとんどが無料で、波とサメを避けられるので、今でもガッツリ泳ぐ感じの人たちを中心に愛用されている。

 

 

ヘンリーとNorth Narrabeen Rock Poolにて。50mの本格的なプールで、1930年代に雇用対策として作られた。ヘンリー曰く、中心部からやや離れているので、人もまばらで、かつ50mプールということで、本格的な水泳の練習にはもってこいだそう。

 

 

ヒーティングされていないので冷たいが、まぁ最初の5分を我慢すれば慣れる(というか、麻痺するのかな。。。)。とは言え、海水なので浮きやすく、慣れると意外にも泳ぎやすいことも判明した。皆、もくもくとラップを続けている。こういうロックプールが、海岸沿いに無数にあるので、オーストラリアが水泳選手を輩出したのも納得がいく。

2kmくらい泳いだだろうか、僕らがシャワーを浴びた頃には、夕日が射していた。ほどよく疲れた僕らは、Balmoralに車を飛ばす。Sydney随一の高級住宅街のMosmanにあるビーチで、公共交通の便が悪いことから、地元の住民が車で行くような特別なビーチだ。だから、BondiやManlyみたいに、人でごったがえしていないのが良い。そしてBalmoralのもう一つの特徴が、レストランの質の高さだ。Bathers' Pavilionと、Public Dining Roomという二つのレストランがあり、どちらも眺めの良さだけに頼らず、味にも抜かりがないのだから素晴らしい。頼んだパスタは、Bucatini(チューブ状のパスタでソースが絡みやすい)で、パスタソースには豪州ではほとんど食されないウニ(Sea urchin roe)を使っており、食材にこだわった一品。ウニと貝の濃厚なソースはパンチが効いていて、ワインとよく合う味付けだった。

 

 
  Bathers' pavillion at Balmoral Beach     Bucatini pasta with sea urchin roe and venus clams, tomato, garlic and parseley.  

 

夜は、Bondiにできた話題のバー、Crossingに行く。シティにある大人びたバーも好きだけど、海岸沿いに住む若者がこうして集って、シティとはまた異なる独自のビーチカルチャーを育んでいるところが良い。お話し好きなウェイトレスが色々身の上話をしてくれた。曰く、彼女は女優を目指して頑張りつつ、ここでバイトをしているという。女優志望だがツンツンした感じは一切なく、こういう努力をしている若者を支えているコミュニティーもまた素晴らしい。

 

 

Bondi crossing

 

 

こうした独自のビーチカルチャーが根付くシドニーでの生活は、「豊か」だと思う。「豊か」と言っても、高級車を乗り回すといった物質的な豊かさではなくて、ライフスタイルそのものが「リッチ(=充実している)」なのだ。日本でこんなライフスタイルを実現したければ、湘南から延々と東京まで通勤するような覚悟と時間がなければ無理で、お金を積めば得られるものではない。シドニーでは、自宅から車で10分そこらでボタニックガーデン、ビーチ、そしてオフィスに行ける利便性があるので、これが独自のビーチカルチャーが育まれる素地なのだと思う。こういう「リッチ」な環境に、シドニーでは、少なくとも少し前までは中流家庭もアクセシブルだった*1。今ではそれなりの高給取りでないと海岸沿いには住むのは難しくなっているが、それでも少し頑張れば手に入るのだから羨ましい。

日本航空 成田 - シドニー線

いつもどおり、日本航空でシドニーに向かう。1A席を指定していたら、機材変更とのことでファーストクラス・シートにアップグレードされる。なんだか幸先の良いスタートである。

 
  Boeing 777-300 ER First Class。シートはEmiratesなども採用する英国のContour Aerospace製     窓から望む日の出。ある瞬間、一直線に光が浮かび出る様子がとても美しい。  


成田-シドニー線で僕が密かに楽しみにしているのが、シドニー到着前に機上から見る日の出だ(だから往路はA席をとることにしている)。この日は豪州の夏の終わりだったので、日の出が遅くなっており、ちょうどNewcastle上空に差し掛かった頃、横一直線に紫色の光の筋が浮かびあがった。機上からしか見えない幻想的な瞬間である。因みに、夏場はシドニー到着前には日が十分昇るので、あえてシェードを開けて寝ていると、着陸前のちょうど良い時間に、窓からそそぐ豪州の力強い朝日に目を覚ますことになるので気持ち良い。

こうして美しい日の出を眺めていたら、ほどよくしてホットタオルを差し出され、オレンジジュースを勧められる。オレンジジュースを飲み干すと、すかさず「朝食はいかがですか」と聞かれる。こちらから声を上げる前に、ちょっとした希望が気持ちよく満たされていく。顧客の心を読んで先回りしてサービスするというのは、日本のエアライン以外には絶対にできない技だ。9時間のロングフライトというのに、それを短く感じるほど、実に美しく時が流れていった。


*1: 因みにBotanic Gardenの年間維持費は約50億円(2012年)もかけている。賃貸・物販収入は12億円に過ぎず、大部分は州政府の補助でやりくりする収支構造になっている。Annual Report 2012。

*2: ここ10年、都市部の海岸沿い地域の一軒家は軒並み1億円を余裕で超えるまで値上がりが進んだ。ビーチサイドに住むというのは、あっさりレイオフされるこの国で、高収入をコンスタントに取り続けるような実力がないと、実現は難しくなっているのである。